藏重の目利き 03
藏重商店の目利き登場シリーズ、3回目はイチゴ担当の登場です。市場のイチゴの取扱は、12月〜3月頃の冬イチゴの時期がピークです。イチゴの真っ盛り、2月に話を聞きました。市場に山積みされた箱も、ついこのあいだのオレンジ色の柑橘の箱から、赤色系のイチゴの箱に代わっていました。
イチゴ 江川正修
「九州から北海道まで、イチゴの暦を繋げるのが役目」
僕は昭和44年生まれで昭和63年入社です。この仕事は32年目、イチゴを担当して25年くらいになります。イチゴの取り扱い量が多いのは11月から6月までで、他にもさくらんぼ、プルーン、道産ぶどう、あと加工柿(あんぽ柿などの干し柿類)を担当しています。
イチゴが他の果物と違うのは、一年じゅう国産品があることですね。
札幌(市中央卸売市場)でいうと、入荷は12月からだんだん増えて3月が最高潮。1〜3月は九州から東北まで産地が出揃います。
4月からだんだん東北の割合が多くなって、7月以降は北海道を中心とした夏イチゴの時期になります。夏イチゴは冬とは品種が違って、温度や日照をコントロールすると一株から何度も花芽が出る、いわゆる「四季なり」品種です。
なぜ北海道で夏イチゴをつくるかというと、イチゴはカビに弱くて高温多湿では育てにくい。それで、本州イチゴがとぎれる夏に合わせて栽培されるんです。
そういうわけで、北海道は夏イチゴ産地の中でも一番人気です。夏のイチゴの9割はホテル、レストラン、ケーキ店など業務用。はじめに言った、「国産が一年じゅうある」というのは、生食用(青果店やスーパーで買ってそのまま食べるもの)と業務用を含めてのことです。生食用と業務用の両方に応えて買い付け、年じゅうとぎれなく繋げていくのがうちの仕事です。
「どのイチゴにもおいしい時期がある」
イチゴの話題で必ず聞かれるのが、「どの品種が一番おいしい?」って質問ですね。ちょっと真面目に答えると、「どのイチゴも必ずおいしい時期がある」んです。
一年じゅう食べてみて、これは本当にそう。どの産地だから、どの品種だからというより、今日はこのイチゴがおいしいな、という感覚で見ています。市場ではよく、「桜を見ていないイチゴがいい」って言いますが、これは気温との関連で、桜前線が上がってくる前の寒い時期は赤く熟すのに日数が余分にかかり、その分糖度が上がるんです。
流通の立場で言うと、季節が暖かくなるほどイチゴが柔らかくなって輸送が難しいという事情もあります。果物には追熟するものもあるけれど、イチゴは追熟はしません。果菜類といって野菜の仲間だからデリケートで、感覚としてはトマトに似ているかもしれません。
僕らは「イチゴが溶ける」というんですが、他の果物が中から傷むのに、イチゴは外から傷みがくるからとても気を使います。お客さんにしても皮をむかずにそのまま口に入るものだしね。
それにしても、日本はイチゴの見た目のこだわりが強いですね。品種は違うけど、フランスの市場みたいにイチゴの量り売りなんて信じられないでしょう? いちごが桐箱に入ってギフトになるのも、そういうこだわりの表れなのかもしれませんね。
「それでも見分け方をと聞かれたら…」
イチゴの担当になって以来、札幌に主に入ってくる佐賀と宮城と福島あたりには行くようにしています。年によっては気候の影響もあって、うまくできたりできなかったりするものだから、何回聞かれてもどれがいいなんて言いきれませんよ(笑)。
それでも何か見方があるとしたら、さっき話した道理で、やっぱり冬のイチゴはおいしいと思いますね。ゆっくり日数かかって赤くなったもの。あとは一粒一粒の違いもあるから、同じ店頭でどのパックを買おうか迷ったら、ヘタ(がく)の付け根が少し伸びて、三角じゃなくて壺のようにくびれができてるのを選ぶといいです。
あと、大粒のイチゴの中には猫の手みたいな変形果があるんだけど、それもおいしい場合が多い。
ひとつ、今でも覚えてる農家さんの名セリフがあってね、東北の大きな農家さんなんですが、「練乳に一番合う食べ物はイチゴだ」って言うんです。「イチゴに練乳が合う」と言うと、そのまま食べても十分おいしいイチゴが、ちょっと違って受け取られちゃうかもしれない。
それで思い余って、「練乳がイチゴを求めてるんだ!」と言うの(笑)。確かに相性がいいですよね。僕の家にもやっぱり、練乳はあります(笑)。そのまま食べる時は、先にヘタをもいで、そこから食べるのがおすすめです。最後が一番甘く感じて終わると、本当においしいですからね。
(聞き手、まとめ:フードライター・深江園子)