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藏重の目利き 02

 藏重商店の目利き登場シリーズ、2回目は道外果実担当の山田公英です。柑橘、メロン、ブドウ、等、北海道外から入ってくる果実を担当しています。話を聞いたのは12月初旬。市場は道内リンゴの季節がほぼ終わり、一気に道外からの柑橘系が入って来る頃。黄色やオレンジ色の箱が所狭しと並んでいます。

​柑橘・道外果実 山田公英

「これはおいしいよ、と勧めるのがプロ」
藏重商店 山田

納得して買いたいなら、まず食べてみてよ
 

 この仕事に入ったのは40年前、28歳の時。実家が農家で、野菜づくりを手伝ってたんだけど、親父が「街へ行って(野菜を)売ってこい」って言うのを聞かないで、ここ(藏重商店)へ入ったんだ。道外果実は全部やってるよ。今はリンゴ一色の時期がひと段落して、柑橘が最高潮。ナシもブドウもまだあるね。師走に入ると、暮れの前哨戦ってとこか。

 目利きというのは、プロからすると素人の言うことだね。素人がちょっと詳しくなると目利きだねというけど、俺たちは違う。お客さんが十分に納得して買ってくれるような提案ができて当たり前。見た目の意味を相手にしっかり伝えること、見た目をどうやってお金に変えていくかが仕事。どうやっておいしさを伝えるかって?そりゃあ、言葉だけじゃ無理。一通り食べてみると話に納得がいくし、ひとつを基準にして違いを話せばわかってもらえる。だからお客さんにはまず、「食べてみてよ」って言うようにしてる。

 みかんが日本全国で何種類あって、この市場にどれだけ来るのか。せりや市場の人なら、それを全部、見た目でどのぐらいおいしいのか、わからなきゃいけない。例えばこれ、食べてみて。一般においしいと言われるみかんの糖度は13.5度以上。この産地のこの箱だと、一箱全部が13.5〜14度でそろう。安売りのみかんは13度から15度までばらつきがあるから、お客さんが一袋買っても、これはおいしくてこれは酸っぱいなんてこともある。俺たちはそういうことじゃない。同じ箱のどれを食べてもおいしくなきゃ、「おいしいよ」って勧められないんだから。

みかん

 温州みかんのシーズンは10月から2月。まず早生が九州から和歌山くらいまで、順々に市場に出てくる。そのあと九州の中生(なかて)が出る。だから、一般のお客さんが「この前買ったのがおいしかった」と言われても、同じ品物はない。そんな時、「あれは終わりました」じゃなくて、「あれと同じくらいおいしいのがこれです」と提案できるのが、いい果物屋さんなんだよね。温州みかん以外の柑橘、今ならデコポンや水晶文旦なんかがあるけど、これは種類ごとや産地ごとの味の個性を売っていく。うちは仲卸だからいろんなお客さんがいる。小売屋さんが安心して一個売りできるものを、相手に合わせて勧めるようにしてる。

 

 みかん箱の横に等級がついてるけど、これは青いスタンプ。一番いいのは赤いスタンプで、特秀とかマル秀が押してある。同じ農協の箱でも、人の名前が入ってるのはよく見ておかなきゃダメだ。きちんとした人のは見てるうちに覚えるから。そうやって見つけた産地がおいしいと言われて札幌で扱いが増えていった時は、ほんと嬉しいね。向こうにある箱のみかんは外なりっていって、日がよく当たる。皮に少しだけ傷がついてるのは、木の外側になっていたから。大きくてあっさりしたおいしさ。それに比べて、こっちのみかんを食べてごらん。食べた後、“味が戻る”でしょ。本当においしいのは、食べ終わってからも後味が口に戻ってくる。そういうのが本当にいい産地、いいみかん。

水晶文旦

柑橘だけじゃない、道外果実は全部やるよ

 

 ちょっと、このメロンとあっちのメロンを見てごらん。表面の感じが全然違うでしょう。でもきっと、片方だけ見たんじゃわかんないと思うよ。いい産地の職人は、メロンを一日に3回も4回も回転させて、その度に水をていねいにやって、こういう姿形に育つように持っていくんだよ。だから、自分たちが品物を見る時は、職人がどういう手のかけ方をしたのかを見てるんだ。そして選んだメロンが、一番おいしくなるのがいつかを知ってなくちゃならない。東京の高級フルーツパーラーじゃあ、メロンを櫛形にカットして皿に置いたら、両端が下がって平らになっちゃうくらいまで追熟する。そうすると甘さ、香り、それにメロン特有のとろみも出て、メロンのおいしさが100%になる。こっちはそれが何日後かわかってて売るし、買う方もわかってて買うから、お客さんが食べる時に一番おいしくなるんだよ。そういう事がわかるには、生産者に会って話を聞いて、3年なり5年なり通って話も聞くことだね。それで、実際食べてどうなんだというのが自分なりにわかってくる。

 柱のきわに置いてある箱かい?あれは大玉梨。なんですぐ売らないかって?少し置いた方がおいしいこともあるの。和梨は洋梨と違って追熟はしないけど、食感や酸抜けの具合が一番いい状態を待つ。初めはガリガリして固い実が、誰が食べてもおいしく変わってくるから面白いんだ。

 産地やお客さんとは、品物を介してつきあってる間に、いつ売りたいのか、いつ買いたいのか、お互いわかり合うようになってくる。じゃあ、自分たちがこういうギフトに向くような特別な品物をいつ欲しいんだと言われれば、札幌は2月の雪まつりの観光シーズン。その頃にいい品物があれば、そりゃあ取引に迫力があるね。…え? 他にも寝かせる果物はあるのかって? そうだな、酸味の強いみかんとか、晩柑類(※年明けから春先まで出回る柑橘類)もそういう場合はあるね。

藏重商店 山田

 この干し芋も、食べてみて。この産地では今年とれたさつまいもを一回茹でて冷凍して、来年の原料になるように保存してる。だから透明感があって、白く粉を吹いてなくて、しっとり柔らかい。これを食べてから、よそのを食べたらわかる、これは本当にうまいよ。この作り方を8年くらい前からやって、今までの干し芋よりもっとおいしさを見極めたということだね。値段も高いけど、一度買ったら必ず次も買いに来てもらえるよ、人に教えたくなるよ、お客さんにそう言える味。それが、だんだん小売屋さんに広まっていくでしょう。そうすると、高くても売れる産地ができて、俺らはやりがいがあるわけ。だから最初に言ったように、目利きじゃなく、「これはおいしいよ」と言えるのが大事。

 

 おいしいものって、人が求める理由があるの。自分だって食べておいしいなあと思っていても、よそでさらにおいしいものに出会えばそっちを贈りたい。そうすると、贈り先から返ってくる言葉が違うでしょ。「ありがとう」って言われるより、「あれ、本当においしいね」と言われたいのが人の気持ちだから。

 年末年始のみかんの保存法が知りたいって? それは、こまめに買うことです(笑)。食べ頃のフルーツを長持ちさせるなんて無理なんだから、無駄にしないように食べる分だけ買うのがいい。あと、家庭ではだいたい冷やし過ぎが多いんだ。暖かい土地でとれた品物は、室温が一番おいしいと思う。そういうことも、食べ比べてみたらわかると思うよ。

​(聞き手、まとめ:フードライター・深江園子)

明治30年代後半

1970年代の札幌市中央卸売市場

1970年代前半頃の市場内。今に比べると大きな箱が多かった。最近は入っている果実の数が多いものから少ないものまで、細分化されるようになった。

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