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藏重の目利き 01

藏重商店には取り扱う青果の分野ごとに、長年の経験を積んだ目利きがいます。品物を見極める確かな目を持ち、毎日のセリにのぞみます。それぞれの目利きに語ってもらいました。

​リンゴ 渡会和雄

リンゴの目利き

 1985年に入社して初めての配属がリンゴ部。以来、30年以上、メロンをはじめとする国産果実も担当しながら、ずっとリンゴに関わっています。
 入社してしばらくは、セリで買った商品を運ぶのが主な仕事でした。ネコ車という荷物運びの台車に積んで運びました。今のようなターレット(*註・エンジン付きの小型運搬車)が今よりずっと少ない時代です。スーパーマーケットもそれほど多くなく、市場には小売店のトラックがたくさん商品を取りに来ていましたね。リンゴは木箱で、中にはもみ殻が入っていた時代です。今も木箱はありますが、保存方法は冷蔵、保存技術の進化で劇的に変わりました。そのおかげで、今はほとんど1年中リンゴが食べられます。季節感が少なくなりましたね。
 昔からあった「デリシャス 」や「スターキング」等に代わって、昭和40年代後半から「ふじ」が流通するようになり、リンゴ市場はすっかり「ふじ」を中心としたものになりました。今は世界の生産量の1位は「ふじ」系で、人気の高いリンゴです。

藏重商店渡会

セリが始まる前、入荷し、並べられたたリンゴを見て回ります。

木箱に入ったリンゴ
日本のリンゴ栽培、北海道に始まる

 そもそも日本でリンゴ栽培が始まったのは、約140年前、明治10年代と言われています。場所は北海道です。国の試験場で栽培したのが七飯、民間で作ったのが余市でした。
 そこでできた日本最初のリンゴと言われているのが、「緋の衣」です。当時、戊辰戦争で敗れた会津藩の末裔が余市に入り、武士から農民となって手がけたのがリンゴ栽培です。赤に黄色と緑色が混じって、武骨な形をしたリンゴです。蜜が皮の表面に出てくる特徴があって、「水リンゴ」と言われたこともあるようです。今でもごくわずか、余市等で栽培されています。
 昭和60年代には、会津藩のふるさと、福島県から知事がこのリンゴを栽培している吉田農園を訪れ、それが縁で福島に苗木を送り、今はゆかりの地福島でも「緋の衣」が育てられているんです。

 吉田農園さんは緋の衣を長い間作り続けていました。かつては当社が全量買い取らせて頂き、札幌の百貨店でやっていた物産展に卸していたこともありました。物産展に訪れた札幌のお客さんに「うちでも作っていた。懐かしい」と言われることも多く、昔はたくさん作られていたリンゴだったんですね。
 明治後半にはリンゴ栽培は札幌でもかなり行われていて、平岸は産地として有名でした。一時は日本一の生産量を誇ったときもありましたが、その後都市化や病気の蔓延で木が切られていき、衰退しました。それからは青森が県をあげてリンゴ栽培に取り組み、試験場を作り、今は圧倒的な日本一の生産量です。北海道の生産量は2018年度で全国8位です。

明治時代の緋の衣ラベル

明治30年代後半の「緋の衣」のラベル。「北海道名産余市苹果特選之証」
​よいち水産博物館蔵

ピーク時には毎日3000箱

 10月の半ばは道内リンゴの入荷のピークです。朝6時半からのセリには、9キロ箱で毎日約3000箱ほどが並びます。余市が圧倒的に多く、あとは七飯、それから深川、滝川といったところから入荷します。「つがる」、「あかね」、「旭」、から始まって、「トキ」「ひめかみ」、「紅玉」、「シナノスイート」、「ぐんま名月」、早生ふじの「昂林(こうりん)」、「紅将軍」や「涼香の季節」、「ほのか」、そして「レッドゴールド」、「ふじ」、「王林」、と、いろいろな種類がありますよ。
 北海道のリンゴで忘れられないのが「ハックナイン」ですね。北海道中央農業試験場で、フジとつがるから作られた大玉の長円形のリンゴです。系統名のHAC9の読みがそのまま名前になりました。甘味と酸味のバランスがよく、果汁も多く、北海道では一時一世を風靡し飛ぶように売れました。しかしだんだんと品質にばらつきが出てきて他の品種に変わっていってしまい、今は入荷数もぐっと少なくなりました。

 セリが始まる前に、並べられたリンゴを一通り見て歩きます。道内リンゴのセリでまず気をつけて見るのは、生産者ですね。道内ものは箱を見れば生産者がわかるようになっています。信頼がおける旧知の生産者であれば、「ああ、ここのリンゴなら間違いない」と安心して買えます。農協の共選の場合は、つけられた等級などを参考にします。

リンゴが入荷した市場

10月になると北海道や東北から、さまざまなリンゴが毎日入荷します。

 リンゴの糖度はだいたい13〜15度くらい。糖度が高ければ美味しく感じるかというとそうでもなく、酸味と甘味のバランスがリンゴの美味しさを決めています。蜜入りリンゴは人気がありますが、実は蜜自体が甘い訳ではありません。蜜の正体はソルビトールという糖質アルコールが蓄積されたもので、普通はしょ糖や果糖に変わって甘味となりますが、完熟した果物はもう糖に変換する必要がないのでそのまま「蜜」として残ったものです。ですから蜜自体はそれほど甘くないのです。ですが、蜜の入ったリンゴは完熟している証ですから、全体が甘いということは言えますね。

 蜜が入りやすいリンゴとしては、「ひめかみ」、「レッドゴールド」、ふじ系のリンゴがあげられます。しかし蜜入りのリンゴも、年が明けるくらいまで置いておくと、果肉に吸収されてだんだんと消えてしまいます。フジの最盛期と蜜が入り出すのは12月〜1月で、蜜入りりんごはその時期を越えると蜜の部分が黒化しやすく品質を落とすので、蜜入りりんごは年越し前、年越し直後までが狙い目です。

 育てるときに、リンゴに袋をかけることがありますが、これは主に色づきをよくするためです。北海道では無袋の方が多いですね。その方が太陽の光をたくさんあびるので、甘味が強くなるといわれています。名前の前に「サン」がついたもの、例えば「サンつがる」や「サンふじ」は無袋で育ったことを意味しています。

蜜って何?
せり、5
せり、6

青果のセリは「上げぜり」と呼ばれるオークション形式で、どんどん値段を上げていきます。声を出すのはセリ人だけ。私たち仲買は指の合図で入札し、声は出しません。​写真左は「5」、右は「6」です。

リンゴのせり人の声.mp3
00:00 / 00:18

セリ人の声を聞いてみてください。

 リンゴの表面が油を塗ったようになることがあります。よくワックスと勘違いされますが、これはリンゴが自分を守るために出す油で、リノール酸やオレイン酸です。津軽やジョナゴールドが油を出しやすいリンゴです。フジ系はそうでもなく、いつまでもさらっとしています。

 リンゴはほとんど追熟しませんし、他の果物と比べて長く保存できますが、日が経ちすぎると果肉は柔らかくなり、いわゆる「ボケ」た感じになってしまいます。
 一般的に最初に出る早生系のリンゴはボケるのも早く、2〜3週間で食べた方がよいです。早生でないフジが出回ってくるのは、北海道では11月半ばからですが、これは年明けて3月頃までも美味しさを保ち、保存性のよいリンゴです。保存方法は、冷暗所で保管が原則です。

​(更新:2019.11.8)

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